月風車

個人運営のサイトです。版権モノのイラストや小説を展示しています。オリジナル小説も有り。BL、801等入っております。この単語に聞き覚えのない方回れ右!

 平日の早朝だというのに、白を基調とした大理石を床や壁にあしらった大会議室の円卓には上杉組きっての幹部らが腰掛けていた。水をうったような静けさの中、ある若者が新たに会議室に入室した。幹部よりも若い。幹部らは厳かに立ち上がると入室してきた若者に一斉に頭を下げた。
 先導の秘書が即座に若者の傍により、一礼をした。
 「直江社長、こちらへどうぞ。」

 青春謳歌  波紋

 三成は一人、大学の大講義室の窓際で黄昏れていた。時分は真っ昼間である。焦点もぼんやりとしていて何処を眺めているのか定められない。
 ふぅ・・・・と幾度目かの溜息を漏らす。大学全体の雰囲気は明日から夏期休暇を控えているとだけあって浮かれている者(校長を含む)が多いのか、祭りでも始めてしまうのではないだろうかという賑わいようである。だが、彼からすればそれらのものもどこか空回っているように思えて仕様がなかった。
 「三成殿!」
 聞き慣れた相変わらず弾むような声が背後に掛けられた。振り向かずとも誰か解った。
 「幸村か・・・・」
 視線を窓から離さずに答えた。幸村は何を見てらっしゃるんですか?と一緒に窓の方を覗き込んできた。だが、何か特別な物があるはずもなく小首を傾げている。
 三成としては幸村と居るのが気まずい。個人の情報を覗いたこともあるのだが、彼に対しての疑問が縮まるどころか一気に拡まったからである。ある程度の危険を覚悟して彼の情報を覗いたが、記載されていた事実は予想と全く反対の物だった。
 そもそも、授業費を全学年納入済みならば身体を壊してまで働く必要性はないのだ。しかも戸籍情報すらなかったのだ。それは国民でない疑いすらあるのだ。現状で言うなれば、国民ではない。何故学園長はそんな法に触れるような人間を入学させたのか。それすらも見当が付かなかった。
 本人に聞けば早い。ひょとしたら情報登録ミスなのかもしれない。誤解だと言って笑ってくれるかも知れない。
 だが、聞けない。怖いのだ。根拠があるわけではないのだが、聞いてはいけないような気がするのだ。聞けば自分が後悔する羽目になるだろう。そんな気がしてならなかった。
 「あの・・・・」
 幸村の一言でハッと我に返った。半ば魂が抜けていたのではないか、と言われても仕方の無いような表情で幸村の方へ振り返った。
 「何か悩み事があるなら・・・・いつでもご相談下さい。力になれるかは解りませんが・・・・」
 幸村はそう言って俯いた。
 「お前が気にすることではない。」
 オマエガキニスルコトデハナイ・・・
 怒りを抑えてそう言ってやるのが精一杯だった。その癖、立て前だけの笑顔を見せてやる。そんな自分が嫌になった。
 「そう・・・ですか・・・。あ、兼続殿が先にラウンジで待っているので・・・・」
 そう言って幸村はその場を立ち去った。

 「遅かったじゃないか。」
 三成がラウンジに到着するなり、兼続は手招きをして三成に座るよう促した。
 「あ、コーヒー貰ってきますね」
 幸村が三成の分のコーヒーを貰いにカウンターの方へ向かっていった。昼時とあって学生で混み合っている。ここに帰ってくるまでは時間が掛かるだろう。
 「その様子だと、見たんだろう。」
 兼続はそう言いながら紅茶を一口飲んだ。仕草は相変わらず品がある。
 「お前は知っていたのか?」
 複雑な表情を崩さないまま三成が問いかけた。指先で丸テーブルをコツコツとしきりに叩いている。イライラしている時の三成の癖だった。
 「全てを話してやりたい所だが色々混み合っててな・・・・」
 ちら、とカウンターに並ぶ幸村の後ろ姿を見遣った。
 「それにあの子の事情だ。私が容易に口にしていような話じゃない。」
 兼続がそこまで言うのだ。三成は煮え切らない思いで深い溜息をついた。
 「どうぞ。」
 思いの外早く帰ってきた幸村が目の前にコーヒーカップを置いた。三成はあぁ・・・と返事をするのみだった。
 幸村が席に着くのを待つと、兼続は三成に一通の封筒を渡した。
 高級紙で、蝶や金、銀があしらってある。
 「これは何だ?」
 三成はそれを裏返したが、何も表記されていなかった。
 「招待状だ。お前は秀吉学長の代理で出席しなければいけなかっただろう?」
 「もうそんな時期なのか・・・」
 三成は面倒くさそうに封書を一瞥した。
 「まあ、そう嫌そうにするな。左近も招待されてたぞ?」
 三成はますます嫌そうに顔をしかめた。
 「所で幸村。」
 兼続はそう言いながら幸村に一枚の小さい紙切れを見せた。そこには夏期休暇中の日付が書いてあった。
 「ここの期間は空いてないか?」
 三成はその日付をみてぎょっとなった。幸村はみっちりと予定の書き込まれたスケジュール帳をめくっている。
 「あの・・・すみません。全部埋まってます。」
 兼続はそうか、と残念そうに紙切れをしまった。
 「いや、この日に三成と左近の三人で旅行に行くことになってな。お前も連れて行こうかと思って。」
 三成は今し方兼続から受け取った招待状を開いていた。そこにはパーティーの行われる日時が記されていたが、先程兼続が幸村に見せた紙切れと全く同じ日にちである。
 「連れて行く気だったのか?」
 三成が半ば呆れたように言う物の、兼続は空になったティーカップを片付けようと席を立った。
 「一番そうなって嬉しがるのはお前じゃないか。」
 そう言って立ち去った。テーブルには顔を紅潮させながらも悔しそうに歯噛みをする三成と、頭に『?』マークを浮かべた幸村が残された。

 放課後、三成は窓からの景色が見晴らしの良い閲覧室にいた。そこまで広い教室ではないが人も滅多に来なく静かなのでそれなりに気に入っていた。何もするわけではなく、夕方の金色帯びた光がそそいでくる窓から帰路につこうとしている学生達を見下ろしていた。
 「・・・・?幸村?」
 見慣れた人影がいるかと思えば、間違いなく幸村だった。夕日に照らされ、長い影をつくって歩いている学生達の中を足早に歩いていく。誰かに向かって手を振っていたかと思うと、正門の方に一人の長身の男が居た。短髪で、体格もしっかりしている。
 幸村はその男の下へ行くと、何やら会話をしながら正門を後にした。

 「武蔵!」
 大学の正門への大通りを歩いていた幸村は、前方に昔からの知人の姿を見付けると急いで半ばかけるように近付いていった。
 「お、今終わったのか?」
 武蔵と呼ばれた男は走ってくる幸村の方を見た。幸村は息を弾ませながら頷いた。
 「もしかして待った?」
 「いや、今来た。」
 そう言いながら二人で歩き出した。
 数分歩いて最寄りのバス停近くまで来た。バスが来るまでには時間がある。
 「何か嬉しいことでもあったのか?」
 時刻表に目を通しながら武蔵が聞いた。
 「先輩にさ、旅行に誘って貰ったんだ。だが、生憎と社長が空けておくように言っていた日にちと綺麗に重なっててさ・・・・」
 幸村は残念そうに俯いた。誘って貰ったことが余程嬉しかったのだろう。
 「そりゃ、運がなかったな。」
 長い夏期休暇の中で綺麗に重なっていた日付。ある種凄い確率である。
 「そう言えば・・・・」
 幸村が思い出したように言った。武蔵がうん?と顔を上げる。
 「何で一週間も空けとかないといけないんだろう?どんな仕事をするのかも聞いてないし・・・・・・」
 前もってどんな仕事をするのかだけは几帳面に自分で連絡をする社長から、今回は一言も聞いてない。その割には一週間空けておけ、と言うのだ。
 「なっ!?幸村、お前もしかして郵便受け見てないのか!?」
 横で呑気に首を傾げる幸村と対照的に、隣にいる武蔵は慌てふためいている。彼はリュックを急いであさり、一通の封筒を取り出した。
 「あ、それ・・・・」
 兼続が三成から受け取っていたものと全く同じ物だった。武蔵は一度切った封の中身を幸村に広げて見せた。
 「ここに日時が書いてあるだろ?」
 幸村は武蔵から封書を受け取ると注意深く目を凝らした。
 「株主総会?」
 「社長が主催者で大規模なパーティーをするんだとさ。」
 武蔵は封書を返して貰うと再び大切に仕舞った。
 「もしかして・・・俺達にこれにかり出されるの?」
 表情をひくつかせる幸村を武蔵が当たり前じゃん、と言わんばかりの目で無言で見詰める。
 「旅行の準備・・・してない・・・」
 武蔵は最初からその返答がくると思っていたらしく、あまり驚きはしなかった。
 「今日、時間は?」
 「空いてる。」
 バイトが幸い何も入っていなかった。武蔵はそれを聞くと幸村の手首を掴んで歩き出した。歩き出した二人の横を乗り込むはずだったバスが通り過ぎる。
 「全く・・・・・変なところで抜けてんだからよ・・・」
 武蔵は溜息混じりに呟いた。対して後ろの幸村はどこか嬉しそうに笑い声を漏らした。
 「笑ってる場合か。」
 振り向かれた武蔵にコツン、と額を叩かれたことは言うまでもない。
 予定から、どんだけ過ぎてるんだっ!という代物です;;(ヒィィ;;)
 一万ヒット記念小説です。三幸初めての現パロ以外のものを書いたので緊張しました;捏造が・・・・入ってます。ハイ;;しかも、なんか兼続のキャラが・・・;;あ、ちなみに金毬とは満月の別呼称です。
 お持ち帰り可能です。文章をお変えにならなければ、どんなフレーム・フォントに変えてくださっても構いません。夢懐って奴が書いたんだよ、との一言添えもお願いいたします。
 転送・二次配布・私物化等はおやめ下さい。お願いしますm(._.)m
 
 こんな不束な者ですがこれからもよろしくお願いします。

 夢懐 拝
 
 ※小説の文をきれいにコピーできない、余分なものがついてくる、という方はメールフォームにご連絡ください。こちらでコピーして、タグを抜かした文章を折り返し送信させていただきます。メールアドレスの記載、ペンネームの記載をお忘れなく。
 一週間たっても返信がない場合は再度ご連絡下さい。
 メールフォームは、リンクに組み込まれております。
 尚、誤字・脱字等御座いましたら遠慮無くご報告下さい。

 ※お持ち帰り期間は、公開から一ヶ月以内です。よろしくお願いします。
 青春謳歌  察知 
 
バイトの勤務時間が終わり、幸村はさっさと着替えを済ませて帰り支度をしていた。閉店した店内には、お疲れ様と労いの言葉が飛び交う。
 外は既に夜になっていた。幸村は星が瞬く黒い空を仰いだ。予定していた時間よりも少し遅い。
 今日も晩ご飯は抜きだなぁ、とぼんやり考えながら駐輪場からマウンテンバイクを引きずり出している時だった。携帯のバイブがブルブルと鳴る。明るいディスプレイには伊達コーポレーションと表示されていた。通話ボタンをプチッと押す。
 「はい、もしも・・・・」
 『幸村さん!?』
 あまりの大声に幸村は携帯を耳から離した。
 甲高く、大あわてで泣きそうな声。
 「もしかして・・・・片倉さん?」
 話し手は伊達社長の有能秘書、片倉小十郎だった。公では有能秘書、眉目秀麗、冷静沈着、鬼人で通っているのだが社長の事となると慌てたり、大粒の涙をこぼして喚いたりとまるで形無しである。
 この状況から察するに、社長絡みだろう。幸村はバイクに跨がり、ペダルを漕ぎ出した。夏の夜風が涼しい。
「社長に何かあったのですか?」
 角を曲がり、マンション近くのコンビニの前を通過する。時折、ひっく・・・、ぇぐっ・・・・だの鼻をすする音などが聞こえる。
 『っく・・・社、長がですねっ・・・・またっ・・・』
 幸村は、はい、と相づちを打ちながらバイクを降り自動ドアの前で暗証番号を入力してエントランスに入った。
 『居なぐなっだんでずよぉ』
 幸村は溜息を漏らした。社長が突然失踪するのは今に始まった事ではない。寧ろ常習犯である。
 『何もっ・・・っく・・・・言わずにっ・・・・』
 エレベーターのボタンを押し、しばし待つ。
 「書き置きや、行き先を示すような手がかりは何も無かったのですか?」
 チン、とベルの電子音がして、エレベーターのドアが開く。幸村は中に入り壁により掛かった。
 『何も゛ながっだです』
 泣きすぎなのか、どんどん言葉が潰れてきている。とにかく泣き止めさせなければ・・・・と幸村は小十郎をなだめに掛かった。
 「だ、大丈夫ですよ・・・・そんなに泣かなくても。またひょっこり帰ってくると思いますよ?」
 多分だが・・・・・・
 エレベーターのドアが開き、ガラス張りの壁から夜景を一望できる通路に出る。壁の側面には、茶色に金色の模様の入ったアンティーク調のドアが並ぶ。
 『げど、明日に゛ば会議もお得意様の打ぢ合わぜもあっで・・・・・』
 幸村は、歩きながら自室の鍵を取り出した。
 『いっづも、会議や何やら有ると、全っ・・部私に押しつけで・・・・』
 「そうですよねぇ・・・・」
 鍵穴に鍵を差し込んで回す。ガチャッと解錠の音がする。
 「こちらの方でも、何か分かり次第連絡しますね」
 幸村がそう言いながらドアを開けているときだった。
 「遅いっっ!!!!」
 幸村はドアノブを握ったまま、片手に握っていた携帯をすべり落とした。ガシャンッと足下で音がする。幸村は視線を足下から玄関の方へ向け直した。玄関の入り口に立っていたのは・・・・
 『「社長!?」』
 落ちた携帯電話と幸村のあげた素っ頓狂な声が見事に重なる。
 確かに玄関からリビングに通じる通路に、伊達社長がふんぞり返って立っていた。何故か、エプロン着用で。
 「全く、せっかく作った晩飯が冷めるだろうがっ!」
 たいそうご立腹である。
 幸村の頭の中はごちゃごちゃしていた。何故社長がここに居るのだろうか、何で自分のエプロンを着ているのだろうか・・・? 
 疑問をあげたらきりがないので、考えることを半ば諦めた。
 『社長ぉ!』
 落ちたままの携帯から小十郎の泣き喚く声が響く。
 『今すぐ戻ってきてくださいっ!明日の早朝に会議があることを御存知でしょう!?』
 「フンッ!あんな長ったるくて面倒なもの誰がでるものかっ!!お前でも充分儂の代理は務まるであろうがっ!」
 幸村は頭を抱えた。
 (お願いですから、あまり声を張り上げないでください・・・・ご近所さんから苦情が・・・・・)
 だが、そんな幸村を無視してデッドヒートと言わんばかりの口論がどんどん展開されていく。
 『貴方はですねっ!いつまでもそんなのだから、今年の売り上げ総高をライバル社に超されてしまうんですよっ!』
 あまりにも声が大きいのか、携帯から擦れるようなスピーカー音が聞こえる。幸村は携帯のことがちょっと心配になってきた。
 「なっ・・・・・!!それとこれとは関係なかろうっ!!」
 幸村はこのことを聞いて少々ビックリした。今まで、ある一社と伊達コーポレーションが熾烈な争いをしていたと聞いてはいるが今年は珍しく抜かされたらしい。とはいっても、一位と二位争いである。
 『しかもですね!これは回ってきた情報なんですけれど、相手方は現社長が引退して、若社長が新しく就任したらしいですからね!!』
 伊達社長はその言葉を聞いた途端、ガラッと雰囲気が変わった。玄関に落ちていた携帯を拾い上げる。
 「おい、小十郎。明日の早朝会議を5時間延ばせ」
 『ご、5時間もですか!?』
 「儂はその時間までには帰ってくるから、いつでも始められるようにしておけ。」
 『はい』
 「あと、各地にいる支部長も急遽招集しろ」
 『承知いたしました』
 伊達社長はそれだけのみ伝えると携帯を切った。
 「何故、会議にいきなり出る気になったんですか?」
 「馬鹿っ!解らんのか!?あの会社の新社長が就任した途端、経営で抜かれたんだぞ!若いだろうがかなりのやり手だろう。そいつが頭の回る奴だとしたら、もう儂の会社に人材抜擢だの何だの手を回すだろう」
 だから支部長を急遽集めたのか・・・と幸村は納得した。
 「それはそうと・・・・・」
 伊達社長は幸村に向き直った。
 「幸村、お前はこの時間帰ってきて晩ご飯はどうするつもりだったんだ・・・・・・?」
 幸村はとっさに目を逸らした。伊達社長は幸村の方へにじり寄っていった。幸村も自然と後ずさる。
 「えっと・・・ですね・・・」
 気づけば、玄関の隅に追いやられていた。伊達社長は尚もドスを効かすかのように問いつめてくる。
 「抜こうとしてたんじゃないのか?」
 息苦しい沈黙がしばし流れる。幸村は言葉に詰まっていた。
 「この・・・馬鹿めがぁっっ!!!!だから体調を崩すんじゃっ!貴様、あれほど儂が三食きっちり食え!といっただろうがっ!!」
 幸村はたった数日前に風邪を患ったばっかりだ。その折りに伊達社長にばれてしまい、家に上がり込まれてご飯を食べさせられる羽目になったのだ。その時、社長にきっちりご飯を食べてなかったり抜いていることがばれて、現在に至る。
 「す・・・・・すみません・・・・」
 社長はフンッと鼻を鳴らすと、ズカズカとリビングの方へと進んでいた。幸村の家を自宅のようにうろついている。
 「冷めるからとっとと食え。」
 幸村は後ろから黙ってついていった。社長がどんな表情をしているのか皆目解らなかった。


 カタン・・・・・
 背後で物音が聞こえた・・・・・ような気がした。強ばった身体から力が徐々に抜けていく。三成は再びパソコン画面に向き直った。部屋から明かりが漏れないように隅のパソコンを起動させている。部屋は真っ暗で、大学は静まりかえっている。もう、夜になっていた。監視がうろついている時間帯だった。
 早く終わらせなければ・・・・・・
 三成はキーボードに情報を入力している。カタカタ・・・と真っ暗な室内にむなしく音が響く。
 三成は内心緊張している。精神の糸がピン・・・と張りつめているのが我ながら解っていた。今、学校のパソコンで侵入行為をしているのだ。学校が厳重に守っている個人情報。
 生徒一覧名を出すまでかなりの時間がかかった。足跡を残さないようにするのがこんなに苦労するとは思わなかった。流石に兼続の助言がなければ、この包囲網は抜けられなかっただろう。
 素早く、学科・学年を暗号化されたものから引き出す。警備作動が不法アクセスだと認知する前に探らないといけないが、兼続直伝のコードが破られるとは思えない。
 そんな中、やっとのことで標的を見つけた。
 学籍番号J0C08B024 真田 幸村
 三成は、その表示をクリックした。次に成績一覧、住所、身体状態、血液型、学費納入状態が出てきた。学費の欄を開く。
 三成は内心、危惧していたことが当たらぬようにと願っていた。体調を崩してまで、学生が働く理由は限られてくる。私立大学、高額な学費・・・・・・
 退学する学生の理由の中に、これは大きいと思う。滞納してしまう学費。この私立大学はそういう面には厳しい。
 たぶん、幸村にこのことが知れたら大きなお世話だと思われるかも知れないが、自分にできることはこのぐらいしか思いつかなかった。きっと自分が手をやこうとしても、やんわりと断るだろう。いや、自分も同じ立場だったらそうするだろう。
 恐る恐るページを開いた。
 「・・・・・・・!!」
 三成はウィンドウを閉じた。
 「な、そんな訳がっ・・・!!!いや、きっと気のせいだ。そうだ、そんなことが有るわけ・・・・・」
 三成は自分に言い聞かすように呟き、もう一度クリックした。数秒後に機動音と共に開かれるウィンドウ。
 「・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
 一体どういう事だ?
 三成は食い入るように何度も画面を見詰めた。
 間違いない・・・・・・
 三成は、急いでパソコンの電源を切ると情報室を後にした。渡り廊下に足音が響く。

 -----一体どういう事なんだ?

 警報機のある通路を確認しながら、やっと学校裏に出る階段前に着いた。

 -----何で住所・出身地欄が空白だったのか?

 階段を音を立てないように降りた。生暖かい風が頬を撫でていく。三成は学校の裏のフェンスをこじ開けた。坂の裏通りに出る。
 人影が、夜の闇に紛れるように消えていった。

 “真田 幸村”

 “18歳 男”

 “文化部文化学科1年24番”

 “戸籍・住所  無記入”
 
 “学費  全学年納入済み”
 「ごほッ・・・!」
 視界が大きく傾く。倒れそうになるのを足を踏ん張って必死でこらえる。
 「・・・・・ッ」
 咳が止まらなく、息が苦しくなってきた。ピピッと体温計が鳴る。覚束ない手つきで取り出し、表示された温度をのぞき込む。
 「さ、三十九度・・・・・・」
 よりによってこんな日に・・・・・

青春謳歌 隠蔽

 高い雲、色濃い空、刺すようなまぶしい日差し、今夏限りの蝉の鳴き声。土曜の昼下がり、大量混雑する人混み、街で鳴り響く大音量の音楽。どれを一つとってもいつもの日常と何ら変わりはない・・・・のだが・・・
 (うぅ・・・・暴力だ・・・・・)
 ふらふらする足取りで、人にぶつからないように必死で歩く。マウンテンバイクはこげない。気を抜いたら本当に倒れそうである。
 (本当に・・・・よりによって・・・・こんな日に・・)
 大学の講義は幸いにも一時間しかないから良いとして、問題は今日の夜に入っている予定の方である。
 (どうしよう・・・でも・・何て言われるか・・・・・)
 あの人にはどうしても逆らえない、絶対に。
 どうしようかと考えあぐねている間にバスが大学の門前に着いてしまった。降りると同時に再び激しい日光が襲ってきた。人混みを避けながら木陰の通りをなるべく歩くようにした。

 『ここでは、この作用があるからにして・・・・・・』
 教授が黒板を差しながら、マイクを片手に独り言のように説明している。広い教室に響く、ノートにメモをとる音。三成は教科書をただ何となく眺めているだけだった。
 (つまらんな・・・・・)
 これが終われば昼休みだ。確か幸村達の学科は午後からの講義だ。
 (早く会いたい・・・・・)
 早くこんな気怠い講義が終わってくれないだろうか・・・・、と窓をぼんやりと眺めて大学の正門を見下ろした。午後からの講義に出るのか大量の生徒達が歩いて大学に入ってきている。 そんな中に見慣れた人影が一人。
 (幸村・・・?)
 見間違うはずがない。三成はもう一度目をこらした。間違いない。幸村だった、が、どこか様子がおかしい。
 日差しを避けるかのように歩いている。心なしか足下も覚束ない。
 (大丈夫なのか?)
 幸村はふらふらと歩いていたが、つまずきかけては立ち止まりを繰り返していた。
 (・・・・・・?)
 様子がおかしすぎる。三成は急に言い様のない不安を覚えた。携帯で時間を確認する。講義が終わるまであと四十分。
 三成は静かに携帯を閉じると、前の黒板を見遣った。それはもう鋭い目付きで。
 『であるからにしてぇ〜・・・ヒッ!』
 三成の視線に気付いた講師は声を震わせた。思わず手にしていたチョークを床に落とす。多くの生徒達が講師の異変に気付いた。ざわついた雰囲気を一掃して流れる沈黙。
 数分間は経っただろうか講師は震える手つきでマイクを握り直して、こういった。
 『えぇ〜皆さん、今日は早いですがここで終わりましょう』
 
 「なぁ、今日のアイツの講義早く終わったなぁ」
 「あ、おれも思った。いつもトロくして長引かせんのになぁ・・・」
 教室は早めに講義が終わり、一足早く生徒達がざわつき始める。三成は幸村達の学科の教室へと急いだ。
 
 「あぁ・・・真田?」
 幸村と同じ学科の学生に尋ねた。学生は教室に向かって大声で尋ねた。
 「なあ、誰か真田しらねぇ?」
 「アイツならさっき保健室に運んでやったケド。」
 「サンキュ!・・・・だってさ・・・て、あれ?」
 学生が振り返った先に三成は居なかった。三成は学生が言い終わらぬうちに走り出していた。
 (様子が変だとは思ったが・・・!)
 ラウンジとバルコニーを通り抜けて、保健室のある棟に向かおうと走っているときだった。
 「待て。」
 いきなり腕を掴まれて、身体が大きく傾ぐ。
 「学内を走るのは・・・・て、三成じゃないか」
 兼続は少々目を丸くしていった。三成は兼続の手を力一杯振りほどこうとした。
 「急いでるんだ!離せ!」
 兼続は三成の腕を放した。
 「そうか、それは済まなかったな。・・・だが走るのは感心しないな。」
 三成はまたもバタバタと走り出した。
 「三成!」
 兼続の呼び止めに三成は鬱陶しそうに振り向いた。
 「幸村知らないか?」

 バタバタドタドタと騒がしい音がしたかと思えば、二人の男子学生が走り抜けていく。通りの学生は、呆気にとられた表情で見送っていた。
 「何故早く言わなかったんだ?どうりで朝から連絡が取れないはずだ。」
 「だから急いでいると言っただろうっ!!」
 ぎゃあぎゃあ言い合いながらも、別棟に着いた。流石にここで騒ぐわけにも行かず、沈黙を守りながらも静かでやや暗い廊下を進んでいく。
 「そう言えば、保健医の左近が居るのではないか。」
 兼続が思い出したように言った。
 「アイツは当てにならんっ!ましてや、あんな輩に幸村を任せておけるかっ!!」
 「そこには同意したい所だが、あいつは確か大手病院の医者だろうが」
 腕は確かなのだ。
 「そうか、なら今度は私が診てやろう」
 兼続も医学部のトップだ。学科内では奇才ともてはやされている。
 「お前は余計ダメだっ!!!!」
 三成はぴしゃん!、とはね除けた。
 言い合って居る内に保健室の扉の前に着いてしまった。兼続がドアを開けようとしたときだった。
 「放し・て・・・下・さ・・・・・」
 掠れるような熱の籠もった声。兼続と三成の身体が一瞬強張る。
 「いいから・・・ちょ、暴れるなって・・・静かに・・・・・!」
 スプリングの軋む音とシーツのすれる音がする。
 「ぃや・・です・・放し・・・て」
 スプリングの軋む音が一層大きくなる。

 ガタァンッ-------!!
 
 保健室の扉が勢いよく跳ね開けられ、三成と兼続が転がり込んできた。ベッドに横たわる幸村の両手を押さえつけていた左近が、度肝を抜かれたような顔をして見ていた。幸村も目を丸くして驚いている。
 「え!!?ちょ、と殿・・・!!」
 左近は今の状況を良く見直した。幸村の両手を拘束しているし、ベッドのシーツは乱れているし、幸村を組み敷いている形になっている。
 左近は顔を青色に変えた。
 「ちょ、これは!!!」
 三成は手にしていたペンケースを形が歪むぐらいに握った。兼続は後ろで指をパチンッとならした。
 「誤解ですってばっ!!!」
 弁明を計ろうとした左近に容赦なく投げ放たれたペンケースが顔の真ん中に見事にヒットする。
 「ぐあっ!」
 大きくよろめいた左近をいきなり保健室に入ってきた黒スーツの男達が取り押さえた。黒いサングラスに、白い“Love”のロゴの入った黒いネクタイ。左近は後ろ手をきつく縛られて取り押さえられた。
 三成は鬼の形相で左近の首を締め上げた。力が強いのか、声も出せずに喉を締め上げられる左近。
 「言い訳はすまいなっっ!!!」
 あの世へ逝ってしまうのも時間の問題かも知れない。
 「直江様、この者の処分どういたしましょう?」
 黒スーツ軍団の隊長格らしき男が兼続に指示をあおってきた。
 「水を飲ませてやれ」
 涼やかな笑みで兼続は言い放った。部下の一人が実行しようとしたときだった。
 「ま、待って下さい!」
 幸村が制止をかけた。三成と兼続の動きが一瞬ぴたっと止まったが、兼続は左近を解放して、三成は不満ながらも、首を締め上げるのを止めた。黒スーツの部下達は保健室から出て行った。
 「で、一体どうしたらこうなるんだ?」
 兼続は幸村のはだけたシャツをなおした。幸村の顔が一気に赤面する。
 「・・・暴れたんですよ・・・・。薬を飲ませようとしたら・・ったく・・」
 左近軽く咳き込みながらも、説明を始めた。
 「この前もですね、そいつは体調を崩した時に処方された薬を飲んでいなかったんですよ。それで、飲ませようとしたら嫌がるもんだから・・・・・」
 「す、すみません・・・でも」
 幸村が懇願するような顔で左近を見た。
 「今日の午後は、どうしても外せない用事があるんです!」
 「なんだ、バイトなのか?」
 三成は苦そうな顔で尋ねた。行ってもらいたくはないが、自分に止める権限はない。
 「いえ・・・・その・・・バイトと言って良いのか・・・何と言いますか・・・。と、とにかく外せないんです!!」
 後が恐いから・・・・・
 三成はそうか・・・と言うのみでそれ以上は食い付かなかった。
 学生がバイトをする理由の大半は生活費と学費の工面のためだろう。自分に止められる理由も権限もない。寧ろ、校長の息子という立場的には後ろめたいくらいである。
 「とにかく今日は休むことだな。相手先と何かもめ事が起これば、いつでも私に相談してくれ・・・」
 兼続は左近から病院絡みの書類を受け取ると、幸村と三成を連れて保健室を後にした。左近はその様子を見届けると、はぁーーーーっと盛大なため息を吐き、チェアに腰掛けた。
 「全く、人は変わるものだな・・・・」
 一応、長い付き合いである自分の首を刈り取りたい位に彼が大切だったのか・・・・。
 左近は軽く笑いを漏らした。“怒り”という感情で一杯だった三成の顔が脳裏に浮かぶ。
 「だいぶ、人間らしくなったんじゃないですか?」
 誰もいない部屋でぽつりともらした。

 気のせいだろうか、天井がいつもよりか高く感じるのは・・・
 幸村は、兼続と三成にここまで車で送ってもらった。二人は部屋まで送ってやる、と心配をしていたがこれ以上大切な時間を割くわけにはいかない・・・と言い、自力で何とか部屋にまでたどり着いたのだった。
 ピピッ
 体温計に手を伸ばす。38度5分。薬が効いてきたのか、熱が少しずつ下がってきたし、眠くもなってきた。
 壁時計に目をやる。7時過ぎ・・・・そろそろ何か連絡を入れないと、大変なことになるだろうと思い、電話に手を伸ばしたときだった。
 プルルルルッ  プルルルルッ
 電話の呼び出し音が鳴った。受話器を持っていた手がこわばり、床に落としてしまった。ガツンッと無機質な音が響く。
 幸村は、おそるおそる拾い上げて通話ボタンを押した。
 「はい、真田で『この、馬鹿めがぁっっ!!!!』
 幸村は、とっさに受話器を耳から離した。あまりの大音量に耐えきれず、スピーカーの割れるようなノイズが混ざっている。
 『一体、儂をどれだけ待たせたと思ってるんだっ!!!来られないなら、来られないで連絡をしろと言ってあっただろうがっ!!この、馬鹿めがっっ!!!』
 矢継ぎ早に語られても困る。幸村はため息をついた。頭痛がいっそうひどく感じられる。
 「あの、・・・・すみま・・ッ」
 言葉を紡ぎ出そうとしたら、ゴホゴホと激しくむせ込んでしまった。思わず、しまった・・・と心の中でつぶやく。
 『おい、もしや風邪を引いてるんじゃなかろうな?』
 いきなり、落ち着いたような冷ややかな声に変わった。
 「す、すみません・・・ちょっと熱が・・・」
 『なぜそれを早く言わんのだっ!』
 幸村は心の中で、だから話を聞いて下さいと切実に訴えた。
 『武蔵には儂から言っておく!今から、30分までには来るからなっ!鍵を開けておけ!!』
 「え、社長!それは・・・・・」
 お断りいたします、と言おうとしたが受話器からはツーツーと会話終了音が流れていた。幸村は盛大なため息をつきながら、受話器を切った。再びベッドの上に横になる。頭痛が嘘のようにまた盛り返してきた・・・・ような気がした。力なく、布団を上に引き寄せた。
 あの人が来るまでには・・・・・
 あの人が来るまでには、睡眠薬は効いているだろうか・・・と心許なく幸村は目を閉じた。
 「お早うございます」
 「昨日は大丈夫だったのか?」
 「大丈夫でした。」
 「本当か?」
 「・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

青春謳歌 交錯

 涼しげな風が白いコンクリートをなでていく。空が徐々に高くなっているような気がした。ここは学校の屋上である。幸村は幾分涼しい影に座っていた。三成のほうはフェンスの前に立って、街をなんともなく眺めていた。
 先に口火を切ったのは三成の方だった。
 「今日は大丈夫なのか?」
 何かを危ぶみ、案じるような声。
 「えぇ、比較的早く終わりますので、大丈夫ですよ」
 三成は訝しそうな表情で幸村の方を見遣った。幸村は少し気まずそうに目線をそらした。
 「ほ、本当ですから・・・・・」
 少しは納得したのかどうか解らないが、三成は視線を幸村から空へと戻した。
 話は、一週間前へとさかのぼる。
 三成は、午後の講義を兼続と共に抜け出した(さぼった)。兼続に連れて行かれた先は老舗の喫茶店だったが、なんとそこは幸村のバイト先だった。三成は兼続の意図が解らなかった。コーヒーを飲み、時間がどんどん経過していった。レトロ調な店内にかけてあった、古時計が七つの鐘の音を響かせる。
 「もう時間か・・・・、行くぞ。本題はここからだ。」
 「?」
 兼続は勘定を済ませて自体を未だに理解していない三成を引っ張っていった。向かった先は喫茶店の裏だった。急いで着替えたのか、慌てた調子で幸村が店の奥から出てきた。
 「すみません、待たせてしまって!」
 「いや、良いんだ。今来た所だよ。毎回こうだと流石に大変だな」
 幸村は三成のほうを、おずおずと見た。
 「あの・・・・・・三成殿は・・・・」
 「あぁ、まだ何も話してないよ。・・・・・・何、事がばれたら後で怒り出しそうだしな・・・・・・」
 兼続は気まずそうな幸村をまくし立てた。初夏だというのにもう暗くなっていた。
 三人は店を出て、街の中を歩いていた。辺りはガヤガヤと騒がしいが、三人の周りには沈黙が流れていた。
 歩き続けると、人通りの少ない路地裏に出た。幸村が小声で三成に話しかけてきた。
 「あの、本当にすみません・・・・巻き込んでしまって・・・・」
 三成は正直言うと我慢の限界だった。何が何なのか訳がわからない。ここに来ても兼続と幸村は一言も事情を喋らない。余程の事だろうと思って、尋ねずに我慢していたがどうやら限界が来たようだ。
 「一体何がしたいんだ!?ここまで来て!!」
 怒鳴りながらも三成が二の句を継ごうとしたときだった。いきなり手のひらで口を覆われる。
 「しっ!」
 兼続が黙るよう促した。一層と辺りが静まり返る。幸村の顔色が変わった。血の気が引いて、緊迫している。三成も異常を察したのか静かになった。

 カツン・・・・・コツン・・・・・

 嫌に響いて聞こえる足音。ここにいる三人の者のどれでもない。
 「早速、来たな・・・・・・」
 小声でつぶやく兼続。幸村は気分が悪そうに静かにうなずいた。三成は今の事態の異常さに正直驚いている。

 カツン・・・・・コツン・・・・・

 ずっと付いてくる足音。そう、まさにこれは・・・・・
 「ストーカーか?」
 三成が小声で囁いた。無言で頷く兼続。三成は早く事態を察し必要以上に口を開かなくなった。
 「後、二分ほど歩いたら走るぞ。ここは道が入り組んでるからはぐれるなよ」
 しばらく歩いて、次の曲がり角に差し掛かった瞬間だった。
 「走れっ!」
 兼続の声と同時に三人がいっせいに走り出した。
 後方からは舌打ちと同時に、走り出す音が聞こえた。
 「全く、しぶとい輩がいるものだな」
 全速力で三成が走っているというのに、幸村と兼続は息を切らしていない。とはいってもこの二人の足は異常なくらいに速い。
 次の角を曲がろうとしたときに、誰かにグイッと腕を引っ張られた。兼続だった。どこかの民家の垣根の中のようだ。隣で幸村が震えながら息を潜めている。
 すぐに走る音と、激しい息遣いが聞こえた。街灯に顔が映し出される。黒いスーツを着た若い男だった。男は辺りを見回すと、舌打ちをしてその場を去っていった。
 「もう、大丈夫だ」
 兼続に促されて、幸村と三成が出てきた。
 「で、一体どういうことなんだ?」
 落ち着いているがいくらかの怒気を含んだ声。幸村は乾いた声ですみません、と呟くのみだった。
 やっと街の明るいところに出た。人のざわめきが奇妙な安堵感を与えてくれる。
 三成が幸村をキッと睨んだ。
 「で、あれはいつからお前をつけてるんだ?」
 幸村は二ヶ月前ぐらいからです、と力なく答えた。
 「何で相談しなかったんだ!!」
 いきなり三成が大声で怒鳴った。一瞬集まる、周辺の人間の視線。
 「す、すみません・・・」
 泣きそうな顔で幸村が謝った。
 「その、言い難くて・・・・・・それに、巻き込んで迷惑をかけるには・・・・」
 「何が迷惑だっ!!!」
 さらに怒りが増している。
 「俺はな、お前の事で迷惑に思ったことなど何もないぞ!?そんなに俺が信用できないのか!?それにだっ、何で一人でそうやって抱え込もうとするんだ!」
 息を荒くして一息にまくし立てた。幸村はずっと黙っていて、俯いていた。三成は呼吸が落ち着いたかと思うと、何か思い至ったのか少し赤面をしてこちらも黙ってしまった。兼続が急に立ち止まった。幸村がハッとなる。目の前には綺麗なつくりのマンションが建っていた。
 「あ、すみません。もう着いてたんですね・・・・それでは・・・」
 幸村は気まずそうに去っていった。三成は幸村の後姿が見えなくなると今度は兼続をにらみつけた。
 「お前は毎週こんな事をしていたのか?」
 「何、今まで隠していたことは悪いと思っている。だが、このまま隠し通したとしてもお前は怒るだろうし、事を公にしても幸村のことを按じて怒り出すだろう」
 確かにそうだが・・・・、と三成は言葉に詰まった。兼続はなおも言葉を続ける。
 「それに、だ。今度からお前の方はどうするんだ?喫茶店の常連になるのは悪いことではあるまい。」
 どことなく楽しそうに兼継が言った。三成は不機嫌そうにそっぽを向いている。兼続には三成の意志が手に取るように解った。
 (聞くだけ無駄だな・・・・)
 声もなく、心の片隅で一人楽しそうに兼続は呟いた。

 そして今日に至る。
 あの日から三成は毎日幸村の帰りを待つようになった。講義の時間は幸村の方が遅い上に、三成はバイトの終わる時間まで待つようにまでなってしまった。幸村が幾ら断ろうとしても、頑として聞き入れない。兼続に説得をしてもらえないかと相談をしてみても・・・・
 『なに、奴は(お前にだけ)過保護なのだ。』
 爽やかな笑みと共にはね除けられてしまった。
 幸村は頭を抱え込んで溜息をついた。背中に当たる屋上の白い壁が一層固く感じられた。
 「どうした?」
 三成が心配そうに顔を覗き込んできた。幸村の隣に座り込む。
 「ここは涼しいな。」
 屋上は陽が強くなっている。その所為なの陰は涼しく感じられた。
 幸村は未だに頭を抱え込んでいる。
 (過保護・・・・・・か・・・・)
 幸村はそっと三成を見遣った。三成は気付かずに遠くの方を眺めていた。
 (けれど・・・・何でだろう・・・・こんなに・・・・)
 こんなにも嬉しいのは・・・・・
 三成は幸村の視線に気付いた。
 「な、どうかしたのか?」
 何故か狼狽えている。幸村は思わずまたもや微笑んでしまう。
 「何も有りません」
 三成は腑に落ちないと言いたげに首をかしげていた。
 幸村は頭を上げてゆったりと壁にもたれかかった。ぼんやりと三成と共に遠くを眺める。
 (いつぶりだろうか・・・・・こんな気持ちは・・・・)
 初対面の頃とはうって変わった、心のそこからと嬉しいと笑える気持ち。
 「あ・・・・」
 幸村が短く声を上げる。三成は幸村の見ていた先を見遣った。
 「あそこ・・・・見てください。」
 指を差した先には、少し高く積み重なるような雲。形がぼんやりとした高い雲。
 「・・・・夏が来るな。」
 三成は気怠そうに言いはなった。幸村と会ってから、こんなにも時間が経っていることを認識させられた様な気がした。
 「早いですね・・・・・」
 幸村も同じ事を考えていたのか、三成と顔を見合わせて二人ともおかしそうに笑った。
 風が一層に強くなって、空へ吹き上げていく。

 私・・・・・少しは変われただろうか・・・・・

 誰に聞こえることもなく、密かな想いは風邪に紛れていった。

 ※五千打越えの企画キャラトークです。三+幸です。
 〜プロローグ〜
 幸村「こんにちは。真田幸村です。」 
 三成「石田三成だ。」
 幸村「えっとですね・・・・五千打越えのキャラトークですって(原稿をめくりながら)」
 三成「何!?一言も聞いていないぞ!しかも二人だけでか!?」
 幸村「えぇ。二人だけで」
 三成「!!??(顔真っ赤)」
 幸村「あの・・・・・大丈夫ですか?(下から覗き込む)」
 三成「大丈夫だっ!!さして問題はないっっ!!!(勢いよく顔を背ける)」
 幸村「顔真っ赤ですよ?熱でもあるのでは・・・・」
 三成「良いから早く始めるぞっっ!!」


 ☆月風車 五千打越え感謝祭 第一弾 三+幸☆

 幸村「皆様、この度は月風車にお越し頂き誠に有り難う御座います。」
 三成「・・・・・感謝している」
 幸村「皆様のおかげで、五千ヒット超えました。本当にありがとう御座います!」
 三成「これからも末永く頼むぞ。」
 幸村「サイトをたてた時には人が来るのかどうかと心配していましたが・・・・・」
 三成「この様に、自然消滅することなく無事に最初の目標を迎えられたからな」
 幸村「本当に、ホッとしております。これからも末永くよろしくお願いしますね!」
 三成「だが、こんな亀並みの更新サイトに来てくれるとは・・・・・」
 幸村「ですねー。一時期トラブルもあってかなり更新止まってましたからね。」
 三成「そんな中でも、来てくれているとは・・・・・その・・・・・本当に有り難く思っている・・・」
 幸村「・・・・・・もしかして、照れてるんですか?」
 三成「・・・・・っ!(図星)」
 幸村「三成殿らしいですね(にこり)。そう言えば、私たちの初作小説は大学パロディですよね」
 三成「いきなり現代物はきついな。」
 幸村「ここの作者は学生モノ大好きですからね。」
 三成「大体、進展と言ってもあまり俺と幸村の仲がそんなに、深まっているような気がしないぞ。兼続の方が何かと詳しいしな(苦い顔)」
 幸村「設定上そうなっているので・・・・;;」
 三成「設定もどうもこうもあるものか!」
 幸村「だ、大丈夫ですよ。きっとこれからお互いのこと分かりあえますよ(ニコリ)」
 三成「・・・・・・・・・・(顔を背ける+赤面)」
 幸村「それでは、これからも月風車をよろしくお願いします。投票にご協力して下さった方々、本当に有り難う御座います。」
 三成「これからも長い目で見守ってやってくれ」
 幸村「それでは、またご機嫌よう」
 三成「また会おう」



 そんなこんなで、有り難う御座います。これからもぼちぼち更新していこうかと思います。来訪者の方々、投票にご協力して下さった方々、どうも有り難う御座います!   夢懐拝
 「着いたぞ、三成」
 目的地に着いたのか、兼継の声が下りろと促していた。

 青春謳歌 有意

 大学の午後の講義を兼続と共に抜け出してきた。世に言う“サボり”である。高校の頃の自分がもしこんな事をしようものなら、きっと憤死しているに違いない。
 兼続は執事を呼び、車を寄越させた。三成は訳も分からず突っ立っていた。兼続は到着した車に乗り込むよう促した。
 (何処に行くというのか?)
 全然検討が着かない。兼続は、車が発進をしても一言も口を開かなかった。意味ありげに窓の外を覗き含み笑いをしている。
 三成は溜息をついた。この分だと、聞いても無駄であろう。諦めて車内にかかる静かな音楽に耳を傾けた。

 車は三十分近く走っていたが、いきなりどこかの駐車場らしきところにはいるとそこで停車した。外から執事が回ってきて丁寧にドアを開ける。兼続は執事に二時間後に迎えに来てくれ、とだけ言い残した。執事は丁寧に頭を下げると、車を運転して去っていった。
 「ほら、行くぞ。三成。」
 未だに訳が解らずにいる三成を兼続は付いてくるよう促した。
 兼続が向かった先は古めかしい、いかにも老舗と言うような言葉がぴったりの喫茶店だった。
 「ここに一体何の用があるんだ?」
 兼続は三成の質問を無視して、喫茶店の入り口を押し開けた。ちりんとドアベルが静かに鳴り響く。
 「いらっしゃいませ」
 奥から聞こえる声。店内は人が結構入っているが、店は静かだった。心地よい音楽とコーヒーや紅茶の香り。カウンターを開けて一人のウェイターが来た。
 「!」
 三成は不意をつかれてビックリしている。それから兼続を背後からキッと睨んだ。ウェイターは幸村だった。幸村も一瞬瞠目したものの、禁煙席と喫煙席のどちらになさいますか?などと営業スマイルを振りまいている。
 「喫煙席で」
 兼続がそう言うと、幸村は二名様ですね、奥へどうぞと二人をテーブルの方へ案内した。三成はずっと兼続を睨んでいる。
 「三成、どうした?」
 「どうしたもこうも・・・!」
 三成が怒鳴り気味に二の句を継ごうとすると、幸村が注文票を持って表れた。右手の人差し指に鈍く光る幅の広いシルバーリング。
 兼続も三成もコーヒーを頼んだ。幸村は伝票を持ってカウンターの奥へと向かった。
 「何故貴様がこんな事を知っているんだ!」
 三成はダンッとテーブルを勢いよく拳で叩いた。少し悔しげである。
 「何だ、妬いてるのか?ちなみに幸村とは高校からの知り合いだ。」
 兼続はそう言って学生証から一枚の写真を取り出した。三成は写真をふんだくるようにして取った。写真には学ランを着た兼続と今よりかも幼さを残している幸村がはにかみながら写っている。
 「高校からの知り合いだったのか・・・・・」
 三成は写真を兼続に返した。幾分納得したようではある。
 「ま、幸村は色々とあってな・・・・・・お前もその内嫌でも知ることになると思うが・・・・・・」
 三成が今、教えろと言おうとした時だった。
 「お待たせしました。こちらコーヒーになりますね」
 幸村がコーヒーを二つ運んできた。三成は声を咄嗟にぐっとつめた。伝票を伏せて立ち去ろうとした幸村を兼続が呼び止めた。
 「何時だ?」
 「今日は午後七時までです」
 「じゃぁ、待っておくよ」
 幸村は店の奥へと行った。兼続は三成に七時まで時間があるか?と聞いてきた。三成は無言で頷くだけだった。
 「そうか・・・だったらくつろげるな」
 ここのコーヒーは評判だぞ、と言って兼続は三成に多めの砂糖とミルクを手渡した。